ホテルに戻ったら、メイがちょうど身支度を終えたところだった。
「おはよう、メイ。ちょっと散歩に行ってたんだよ」
「そうでしたか。何か、ありましたか?」
「姉さんに紅茶頼まれてたから、それを買ったんだ。
・・・あ、あと、そろそろラッセンリーツに帰ってみようと思うんだ」
「そうですか!久しぶりに帰ることになりますね」
「ごちそういっぱい用意して待ってるってーっ」
「シロマさっきからそればっかり」
「楽しみなんだからしょーがないじゃん」
「だから、今日の昼にはここを出てラッセンリーツに向かおうね」
「はい、わかりました」
「・・・と、朝ごはん食べてないんだよね。食堂行こうかな」
「じゃ、またなんか持ってきてねー。昨日のあの魚の塩焼きはおいしかったー」
「はいはい。じゃ、行こうかメイ」
コナとメイは食堂に向かった。
*
食堂に行くと、たくさんの人がコナたちに話しかけた。
コナは、固めのパンとサラダを食べながら、人々から飛び交うさまざまな質問の一つ一つを丁寧に答えていった。
メイも、質問されたことに少しずつ答えていった。
二人とも食べ終え、厨房にシロマの朝食用に何かないかと聞いていたところだった。
「旅人さん・・・!旅人さん!」
声をかけたのは小柄な老婆だった。齢70歳くらいだろうか。
「はい、どうしました?」
コナが聞いた。
メイが、厨房の人にシロマの朝食を貰って礼を言った。
「旅人さん・・・ラッセンリーツのあの施設に向かうってことを聞いたんだけど、本当なのかい?」
「ええ、そうですよ。あの施設を、ご存知なのですか?」
コナは驚いた顔をした。
施設のことを知っている人と話したのは何年ぶりかわからなかったからだ。
「知ってるも何も・・・あそこには私の息子が入ってるんだよ・・・。
2年前に施設に入ると言って出て行ったきり連絡がなくてねえ。住所もわからなくて、困っているんだよ」
「・・・そうだったんですか」
「そこでね、旅人さん。私・・・息子に手紙を書いてずっと持ってあるんだよ。施設に行くのなら、息子に渡してやってくれないかねえ・・・」
コナは少し考えて言った。
「はい、わかりました。・・・それで、息子さんのお名前を教えてもらっていいですか?私の知っている人かもしれませんしね。」
「いいのかい?ありがとうねえ。息子は・・・・・リゼルというんだよ。」
「リゼル・・・聞いたこと、ないですね」
メイが言った。
「そうだね。きっと最近入ったんだよ。・・・私の知らない方のようです。今日の昼には出発するつもりなので、お手紙、お預りしていいですか?」
「ああ、これだよ。よろしくね。」
よれよれになった白い封筒を、コナは受け取った。
ずっと、握り締めていたかのように、しわくちゃだった。
「確かに、お預りしました。必ず、渡しておきますね。」
「ありがとう・・・・・ありがとう」
老婆の細い目から涙が一粒流れ落ちた。