「はぁぁー・・・・・・」
誰もいない教室、3年Z組で、バッグを持ったまま神楽は立ち尽くしていた。
窓の外ではいつもの見慣れたメンバーがサッカーの授業を受けている。
・・・といっても授業というより生死を掛けた命がけの対決にすら見える。
楽しみにしていた体育のサッカー。
なのに、まさか体操着を忘れてくるなんて思いもしなかった。
昨日雨が降って洗濯物が乾きにくかったことを今更思い出した。
「最悪アル・・・・・・・」
そうつぶやき途方に暮れていた。
とりあえずここにいるよりは見学した方がいいだろうと思い、重い気分で教室を出ようとふりかえったそのとき、
ガラッ
急にドアが開いたのにもびっくりしたが、何よりびっくりしたのはドアを開けた人物が沖田総悟だったことだ。
「見つけた。・・・体操着忘れてきたんですかィ?」
「うっ・・・」
図星をつかれて顔をしかめる。
「おっ、お前は何してるアル!そっちこそ制服で・・・っ」
「あァ、ちょっと風邪気味でねィ。そんでチャイナがいねーから探してたんでさァ。」
「へぇ・・・・・」
”探してた”の一言がくすぐったくて、嬉しかった。
「チャイナ、ちょっと来ねーかィ?」
「?!どこアルか?」
「屋上でさァ。」
手を引かれて、そのままひっぱられた。突然すぎて、よくわからない。
屋上に出ると、初夏の爽やかな風が当たって心地よかった。
フェンスにそのままもたれかかる。つないだ手は、離さないで。
その時間中二人はそうしていた。
お互いこの時間が長く、長く続けばいいのにと願っただろう。
サッカーよりもこっちの方がずっといいってことなんて、わかりきっていることだった。
それが体育でも酢昆布でも、貴方にかなうものなんてない。